3月中旬に、中国・上海にて実施された「麟閣パチモノツアー」。
パチモノゲームに興味と関心がある人々が手を取り合い、
艱難辛苦を乗り越えて立派なパチモノを目指すという
感動と絆、友情のイベントでした。
このツアーについて文章にまとめてみたところ
そうさめも様に掲載して頂けることとなり、とても感謝しています。
長いですが、読んで頂ければ幸いです。
よろず怪奇物事探究サークル・或隠舎 目目連(@mokumokuren)
■パチモノツアーの「匂い」
「ああ、パチモノゲームの醸し出す独特の雰囲気は、この匂いに似ているなあ」。
上海の「全家」こと、ファミリーマートに入った瞬間、そう感じた。
花椒だろうか。八角だろうか。
中国の人が料理をしている中華料理店などで時々嗅ぐことができる
香辛料や発酵食品などがないまぜに折り重なった、
むあっとしたあの匂い。むわっと、ではなくむあっとしている。
それが凝縮されたような、むせ返るようなフレーバーが、
惣菜スペースの謎スープから発せられ、コンビニのなかに充満していたのだ。
パチモノゲームを探し求め、上海の地に集まった「麟閣パチモノツアー」。
このツアーを思い出すたびに、何故かこの匂いが鼻孔を刺激しているような気になる。
ゲーム趣味の極北の一つであろう、パチモノゲーム。
ソニックのステージを何故かマリオが駆け回る「ソマリ」や、
ファミコンソフトなのに「ストリートファイターⅡ」や「サムライスピリッツ」の
キャラが対戦する格闘ゲームなどに代表される、パチモノゲームたち。
勝手にゲームの中身をいじったり、別ハードに移植したり、時々は無駄にエロかったり。
果ては「オリジナル」のゲームがでっち上げられたり、
カセットが存在しないはずのゲームが勝手にロムカセットになっていたりもする。
問題が多すぎて一般販売できぬような、荒唐無稽で濃厚なゲームの数々は、
好きな人にはたまらないスメルを醸し出している。
それが、あのいろいろなものが混じったコンビニの匂いのように感じた。
■変わりつつある街
関西国際空港から上海へ。
リニアモーターカーや地下鉄を乗り継ぎ、待ち時間含めて6時間ほどで、
あのコンビニにたどり着いていた。
初めての海外旅行だったが、正直思ったよりも近くて楽だった。
パチモノツアー本番は翌日の予定。到着したこの日は前哨戦とばかりに、
麟閣さんの紹介で同じ部屋に宿泊することになった4人で
上海のゲーム屋さんを巡ることになった。
街を歩くと、出店のような所で売られる中華まんのような食べ物や、
八百屋(?)に、2メートルくらいの高さまで積まれているチンゲンサイ。
隙さえあれば干されている洗濯物。そして、林立する高層ビル。
言うまでもないかもしれないが、街並みが実に中華的だ。
区画整理のため立ち退きを迫られている建物には、
それに反対する住民の主張が書かれた張り紙が大きく張り出されていた。
こういった古い建物と、無駄に高いビルが共存しているあたりは
変わりつつある街の風景といったところだろうか。
■上海でスイッチ見学。あえて上海で
到着した、こじんまりとしたゲーム屋さんには、
目下話題の最新機「ニンテンドースイッチ」が鎮座していた。
ショーケースを見回すも、目に入るのはプレイステーション3、4や箱ONE。
PSPGOもあり、少し欲しかったが我慢した。
我々が探し求めるファミコンなどのパチモノは、もはや過去の産物なのだろうか。
「パチモノは、もうないかもしれません…」
上海へ向かう機中、麟閣さんがさみしそうに話した言葉を思い出す。
呉下の阿蒙にあらず、日々変化しているとされる中国。
パチモノゲームの本場であったのはもはや過去の話で、
そういったものを扱う所も減少の一途をたどっているという。
さみしくもあるが、最新機種のゲームが並ぶ棚は、その言葉を裏付けるようだった。
異国の品揃えを物色しながらも、お目当ての品はなさそうで
テンションが徐々に下がる一行。
筆者も残念な気持ちで、ご店主の息子であろう男児がパソコンで遊んでいる
スマブラのインチキゲームのようなものを観察していた。
ゲーム屋さんなのに、なぜかカウンターのすぐ奥にはキッチンがあり
でかい中華鍋には、作りかけのチンゲンサイの炒め物。
最新ゲームとチンゲンサイが同居する風景。さすがだ。
パチモノはなくても、せめて日本では考えにくい
この謎空間だけでも堪能できれば…と考えていた。
■対話の大切さ
その時である。麟閣さんが、店主に中国語で何やら話し始めた。
「古いファミコンなどのゲームを探している」と伝えているようだ。
すると思案顔で聞いていた店主が、おもむろに商品棚の下の方の引き戸を開けた。
そこには、ホコリまみれの薄汚れたビニール袋が見えた。
中には何かが無造作に放り込まれている感じだ。
「うわったぁっああっ!!(↑↑)」
いきなり、言葉にならないような歓喜とも感嘆ともとれる大声をあげる麟閣さん。
店主が開いたそのビニール袋をのぞき込んでみると、
中には大量のゲームボーイソフトがあった。見たこともないタイトルがたくさん。
これはパチモノだ!
声は上げないまでも自分が、目を見開いた瞬間を明確に覚知した。
パチモノは、あったのだ。この上海に現存したのだ。
最新ゲームが並ぶ、きれいな、でもチンゲンサイを炒めている店内。
その中華鍋の隣で、ひっそりと我々の訪問を待ってくれていたパチモノゲームたち。
いとおしいではないか。小汚く見えたビニール袋は、宝の袋だったのだ。
店主に直接聞かなければ、このパチモノが出てくることはなかった。
対話によって意思疎通することが、とても大切なことだと実感する。
人と人は、話し合うことで、通じ合うことができる。これは国内外を問わない。
これこそが、人類が希求する世界平和への王道なのではなかろうか。
あとパチモン探訪の。
■末端価格「ひと山いくら」
袋から競うようにゲームボーイソフトを引っ張り出し、物色を始める我々。
皆、自然と顔がほころんでいる。
初めてねるねるねるねを作っている幼児のように、毒気のない笑顔だ。
しかし、ソフトは大量。1つずつチェックするのには時間がかかる。
またもや店主と会話を始める麟閣さん。
ソフトの山を、両手でぐわっと包み込むようなジェスチャーが印象的だ。
すると店主が、我々を1人ずつ指さし「イー、アル、サン、スー!」と叫ぶ。
4人いるだろ!ということだろうか。
聞いてみると、ここにあるソフトを全部買いたいと申し出たら
1本ずつではなく、4人いるので1人いくらで払ってもらいたい、ということだという。
値段を聞くと、そんなに高くない。まとめて買うので、1本だと数百円。
これは買いだとばかりに、すぐさま購入することになった。
よもや、初めての中国でのパチモノ購入が「ひと山いくら」になるとは思わなかった。
こんなアバウトな、でもパチモノらしい購入法も海外旅行らしくて面白い。
何故か1人ずつご店主と握手し、大量のゲームボーイソフトをひっさげた我々は
幸先の良さにご満悦の表情でこの店を後にした。ありがとう、チンゲンサイ。
■2017年、匠の技
テンションを上げ、次の店へ向かう。
次のお店は、おばちゃんが切り盛りする、先ほどよりも少し狭いお店だった。
ぐるりと見回すと、早速パチモノのファミコン本体が。これは期待できるお店だ。
ファミコンのソフトはないかと聞いてみると、
奥の方の棚からザルに入ったホコリまみれのソフトたちがどーんと出てきた!やった!
かなり年期の入ったソフトたちで、ボロくもある。
あるソフトを持ち上げると、中の基板部分がぞろっと抜け落ちてしまった。
すかさず「ボロいから安くして」(意訳)と持ちかける麟閣さん。
すると、おばちゃんは甲高い声で何か言いながら
ひょいっとそのソフトを手に取るや否や、分解を始めた!
「修理するから大丈夫。安くはしない」(意訳)
みたいなことを言いながら、突然修理を始めたのだ。
修理と言えば聞こえが良いが、どうやら基板が抜け落ちていないカセットを分解して
そこに基板をぶち込もうという魂胆らしい。パチモノのニコイチである。
見ると、シールまではがして張り替えようとしている。
創造と破壊は隣り合うもの…そう思う間もなく、
ガキガキとカセットを開けていくおばちゃん。
2017年である。この2017年に、よもやパチモノファミコンソフトを
強引に「修理」する光景を目にすることができるとは。
このような珍妙な光景を記録するよう、私は神に運命づけられているのではなかろうか。
2017年、いまだ生きていた匠の技。熟練の適当な修理ぶりを前に、
興奮を抑えることができなかった。
カメラを持つ手が震えたのは武者震いだけではない。
結局、ここでもファミコンソフトと胡散臭い本体を購入した我々。
予期せぬ大きな成果に意気揚々とホテルへ引き揚げた。
爽やかな笑みを浮かべながら
「もう、すごい満足。超満足。これで帰ってもいいくらい」
と言う麟閣さんは、皆の気持ちを代弁するようだった。
(その2へつづく)
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